寿引退

相撲界には、若い衆(関取ではない、幕下以下のお相撲さん・年齢に関係なくそう呼ぶ)は
結婚できないという、暗黙の了解があるのをご存じですか?
 
お相撲さんは関取にならないとお給料がもらえません。
部屋に暮らしていれば衣食住に困ることはないので、独身なら何の問題もないのでしょう。
しかし結婚して部屋を出るとなると、現実的にお給料なしでは生活が成り立たない
という理由から、そんな暗黙の了解が生まれたのだろうと思います。
 
夫は若い衆として約25年間お相撲を続けてきました。
そろそろ潮時だという気持ちはあったそうですが、
やはり結婚が引退のきっかけになったのは事実です。
だから名付けて「寿退職」ならぬ「寿引退」。
 
断髪式は結婚披露宴のなかで行われ、部屋の関係者はもちろん、私の親族や友人も含めて
たくさんの方々にハサミを入れていただきました。
 
両親をはじめ新婦側の出席者はみな、相撲界にゆかりのない人ばかりだったので、
断髪式は珍しい経験で驚いた人も多かったみたいです。
 
会場はホテルの宴会場だったので、花嫁である私も打ち掛け姿でハサミを入れました。
 
国技館の土俵上での断髪式の模様をテレビなどで見たことがある方もいらっしゃると思いますが、
国技館で断髪式ができるのは、条件(どんな条件か詳しくは知りません)を満たした関取のみ。
 
「女人禁制」である土俵上での断髪式においては、
その力士の奥さんやお母さんなどは親族であるにも関わらず、
ハサミを入れることができないのです。
 
国技館での断髪式は、限られた関取にのみ与えられた、名誉なことなのだけれど、
そのことばかりは少し気の毒に思えます。
 
若い衆の断髪式は、毎場所後に各部屋で催される千秋楽の打ち上げパーティで
行われることが多いそうです。
 
だから夫はつねづね
「結婚披露宴と同時に断髪式をさせてもらえるのは、若い衆にとって最高の引退の花道だ」
と言って、親方をはじめ関係者のみなさまに感謝しています。
 
そもそも花嫁がいなければ実現できなかったってことも、夫には忘れてもらっちゃ困ります!
感謝してね。