お相撲おじちゃん

 5月場所中、夫の甥っ子Tクン夫妻がお相撲観戦後うちに寄ってくれました。
相撲観戦のあとはやっぱりちゃんこでしょう!
ということで、夫が腕によりをかけて作ったちゃんこ鍋を食べながら、話に花が咲きました。
 
今年30歳になるTクンは、夫が相撲界に入門した年に産声をあげました。
だから夫はいっそう感慨深いものがあるようです。
 
Tクンが生まれたのは、九州場所を前にして力士たちが福岡に乗り込んだあとだったそうですが、
ちょうど新弟子検査の受検準備のため東京に残っていた夫は、
ラッキーにも生まれたばかりのTクンとの対面を果たし
海外赴任中だったパパよりも先に抱っこできたのだそうです。
 
それからというもの、地方場所から戻るたびにおもちゃを買ってはTクンに会いにいったといいます。
初甥っ子だったので余計に、かわいくて仕方がなかったのだと思います。
 
Tクンとその弟Yクンは、夫を“お相撲おじちゃん”と呼びます。
私には耳新しいこの呼び方が、はじめは斬新に感じられました。
しかしなるほど、「お相撲さん」よりも、慕っている感と親近感がぐっと高まります。
それにしても、なんともかわいらしい呼び方です。
 
そんなTクンが結婚したのは2年前。
時の流れを実感しつつ、うれしさもひとしおだった夫は、
披露宴でふたりの結婚を祝う自作の相撲甚句をうたって、
わき立つ慶びの気持ちを表しました。
 
Tクン夫妻がうちに来てくれた日に、夫のまげが入ったケースを久々に開けてみると、
5年以上経つというのに、なお鬢付け油の香りが漂いました。
 
そのときTクンがつぶやいた「懐かしいにおい…」という言葉に、
Tクンにとって鬢付けの香りは、小さいころから身近なものだったんだなぁ、
と感じ入ったと同時に、
Tクンって、ごくふつーで、ごくごくまともな好青年だけれど、
お相撲さんを叔父にもつ、という点において、人とはちがった、珍しい環境に育ったんだな~、
などと改めて合点してしまいました。